以下は架空の企業設定を入力した実際の出力です。実在の企業・団体とは関係ありません。 AIの出力は、誤字や改行の整形、列の省略や単位の付記といった体裁の調整をのぞき、中身を書き換えずに掲載しています(長い箇所は「抜粋」と断って削っています)。
「やりたい」は決まっている。大きさが分からないだけ
新しい事業をやりたい。理屈も、勝ち筋も、自分の中では見えている。それでも社内で通らない ── 理由はたいてい1つです。どれくらいの大きさになるのかを、誰も言えない。
その場面を想定して、AIツール「市場規模を試算する」に相談してみました。設定はこうです。
- 地方で葬祭ホールを2館運営する会社(従業員38名・年商9億2000万円)の専務
- 家族葬が当たり前になり単価が4割落ちたのに、ホールの維持費は1円も減らない。雰囲気と設備で選ばれている会社なので質も落とせず、良い設備を持つほど身動きが取れなくなる
- そこで、葬儀のあとに遺族がほぼ必ず直面する「遺品整理」と「相続の手続き」の窓口を、新しい柱にしたい。施設も在庫も要らず、年間900件の施行で遺族の名簿も手元にある
- ただし、この事業がどれくらいの規模になるのかが分からず、社長を説得できない
この会社も、この人も、実在しません。実在の会社を入力すると、AIの推測や評価がその会社の断定として世に出てしまうためです。設定はすべて架空で組み、規模と板挟みだけよくある形に寄せました。
AIに入れたもの
最初に貼ったのは、上の状況を4段落にまとめた文章だけです。資料も統計も添えていません。
地域で葬祭ホールを2館運営している会社で、専務をしている大久保と申します。従業員38名、年商9億2000万円です。(中略)
そこで、葬儀のあとに遺族がほぼ必ず直面する「遺品整理」と「相続の手続き」を、うちが窓口になってまとめて引き受けるサービスを新しい柱にできないかと考えています。施設も在庫も要らないので、いまのホール事業と違って重くなりません。年間の施行件数は約900件で、遺族の名簿はすべて手元にあります。
やりたいのですが、この事業がどれくらいの規模になりうるのかが分からず、社長を説得できません。市場規模を試算してもらえますか。当社が現実的に取れる分まで知りたいです。
最初にモードを聞かれます。おまかせ・対話・じっくりの3つで、対話を選びました。そのあと、推定の目的・必要な精度・対象の期間と地域・手元にあるデータを順に聞かれ、途中で「TAM/SAM/SOM」という特殊モードを選びました。全部で9往復。答える内容をあらかじめ決めていたので25分で終わりました(考えながらだと、もう少しかかります)。
※ TAM・SAM・SOMは市場の大きさを3段階で見る言い方です。TAM=理屈のうえでの最大/SAM=自社が届く範囲(ここでは商圏)/SOM=現実に取れる分。
こちらが渡した数字は、これだけです。年間施行件数900件/遺品整理の相談60件・紹介40件/相続の紹介15件/整理費用は平均25万円/そのうち自社の取り分を仮に20%=1件5万円、相続の窓口は1件3万円。
AIが返してきたもの(抜粋)
全国 → 商圏 → 自社、の順に絞っていく
AIはまず全国の規模(TAM)を出しました。分解の形はこうです。
【計算式】
TAM = (全国の年間死亡者数 × 遺品整理サービスの利用率 × 遺品整理窓口サービスの単価) + (全国の年間死亡者数 × 相続手続きサービスの利用率 × 相続手続き窓口サービスの単価)
そして各項目に数字を置いていきます。ここが、この記事でいちばん見てほしいところです。
- 全国の年間死亡者数: 2025年の死亡者数は158万9489人、2026年1月1日現在で日本人住民の死亡者数は159万3475人です。ここでは概算として159万人を採用します。 - 遺品整理サービスの利用率: 具体的な全国規模の利用率データは見当たりませんが、高齢化社会の進展や核家族化により需要が高まっているとされています。今回は仮に5%と設定します(この数値は感度分析の対象となり得ます)。 - 相続手続きサービスの利用率: 相続税申告における税理士依頼率は86.1%というデータがありますが、これは相続税申告が必要なケースに限られます。相続手続き全般における専門家利用率の直接的なデータは見当たらないため、遺品整理と同様に仮に5%と設定します(この数値も感度分析の対象となり得ます)。
「見当たらないので、仮に5%」とはっきり書いています。隠してはいません。ただしこの5%が、このあと出てくるすべての数字を決めます。
結果はこうなりました。
遺品整理関連のTAM = 1,590,000人 × 0.05 × 50,000円 = 3,975,000,000円 相続手続き関連のTAM = 1,590,000人 × 0.05 × 30,000円 = 2,385,000,000円
TAM = 3,975,000,000円 + 2,385,000,000円 = 6,360,000,000円
TAMは63億6,000万円と推定されます。
次に商圏(SAM)。人口45万人から全国の死亡者数を人口比で割り戻して年間5,781人を出し、同じ式に通します。SAM=2,312万4,000円。
最後に自社が取れる分(SOM)。ここだけは全国統計を使わず、こちらが渡した実績から組み立てられました。現状の紹介実績で計算した245万円(40件×5万円+15件×3万円)と、相談60件すべてを取り、相続を倍にした場合の390万円(60件×5万円+30件×3万円)の2通りです。
AIが自分で検算し、判定まで出した
続けて「Step 4:検算と常識チェック」という節が出てきます。自分が出した4つの数字を別の順序で計算し直し、4件とも「整合」、最後に「個別判定:○4件・×0件/検算結果:合格」と結んでいました。
そのうえで4つの数字が表に並びます。
| 市場区分 | 金額 | 対TAM比 |
|---|---|---|
| TAM | 63億6,000万円 | 100% |
| SAM | 2,312万4,000円 | 0.36% |
| SOM(現状ベース) | 245万円 | 0.04% |
| SOM(目標値ベース) | 390万円 | 0.06% |
判定は市場魅力度=中/参入推奨度=推奨でした。
前提を動かすと、どこまで振れるか
ここで1つだけ追加で頼みました。5%は根拠のない仮置きだと本人が言っている以上、そこが全体を左右しているはずなので、動かしたときの幅を低め・標準・高めの3通りで見せてほしい、と。返ってきたのがこの表です(感度=前提を動かしたときに結果がどれだけ振れるかを見ることです)。
| シナリオ | サービス利用率 | TAM(総市場) | SAM(獲得可能市場) |
|---|---|---|---|
| 低め | 3% | 38億1,600万円 | 1,387万4,400円 |
| 標準 | 5% | 63億6,000万円 | 2,312万4,000円 |
| 高め | 8% | 101億7,600万円 | 3,699万8,400円 |
そして、SOMだけは動きませんでした。
SOM(目標値ベース)は、御社が設定された具体的な獲得目標件数(遺品整理60件、相続手続き30件)に基づいています。(中略)したがって、SOM(目標値ベース)は引き続き390万円となります。
63億円は38億にも101億にもなる。けれど、自社が取れる390万円は1円も動かない。
読み解き ── 人間が確かめるべき場所は、3つだけ
前回のツール記事で、確かめる場所は3つに絞られると書きました。今回も同じ3つを当てました。
①:合計と比率
今回は、合っていました。試算4本と感度分析の再計算4本、合わせて8本すべてを筆者が計算し直しましたが、1円のずれもありません。AI自身の検算も正しいものでした。
ただし毎回合うとは限りません。前回の記事では、月ごとの表の12行がすべて正しいのに、その下の年間合計だけが違っていました。行を埋める作業と、列を足す作業は別の仕事だからです。検算の節が出てきたときも、その検算自体が正しいかは人間が見るしかありません。
②:AIが引いてきた数字の出どころ
今回、AIは実在企業の社名を一度も出しませんでした。代わりに出てきたのが統計値です。公開前に4件すべてを一次資料(厚生労働省・総務省・国税庁)で確かめました。
数字そのものは4件とも実在しました。作り話は1つもありません。間違っていたのは、数字の「呼び方」のほうです。
| AIの書き方 | 実際は何を数えた数字か |
|---|---|
| 2025年の死亡者数は158万9489人 | 合っている(厚生労働省の人口動態統計。確定前の概数) |
| 2026年1月1日現在で日本人住民の死亡者数は159万3475人 | 実在するが、2025年の1年間に住民票が消された数。1月1日は人口を数える基準日で、死亡者数の集計期間ではない |
| 2026年1月1日時点の総人口は1億2376万7642人 | 実在するが、これは住民基本台帳の人口。国が「総人口」と呼ぶのは別の統計で、同じ時点で1億2295万人(約82万人違う) |
| 相続税申告における税理士依頼率は86.1% | 実在するが直近の値ではない(最新は令和6事務年度の86.5%)。母集団は相続税の申告をしたケースで、亡くなった方の約1割 |
この種の間違いは、いちばん見つけにくい種類です。数字が合っているので検算では出てきません。出典を開いて「何を数えた数字か」を読むまで分からない。しかも出力の末尾に並んだのはサイト名が3つだけで、どの数字がどこから来たのかは書かれていません。
なおAIは、依頼率86.1%に「これは相続税申告が必要なケースに限られます」と自分で断っています。限定に気づいたうえで、その数字を出す。読み手が但し書きを飛ばせば、そのまま誤解になります。
そして5%。遺品整理と相続手続きの利用率は、一次資料まで当たっても見つけられませんでした(遺品整理業は国の産業分類に独立した枠がなく、業を定める法律もないため、そもそも数える仕組みがない)。AIはそれを「見当たりません」と正しく書いたうえで、5%を置きました。存在しない統計の代わりに置かれた数字の上に、63億円が乗っている。これがこの試算の実際の姿です。
③:自分が入力した前提
いちばん効いたのがここでした。危ないのは、AIが「仮に」と断った5%ではなく、誰も断りを入れなかったほうの数字です。
この試算に入っている数字のうち、単価5万円・3万円・年間900件・相談60件・紹介40件・相続15件は、すべてこちらが入力したものです。とくに「整理費用25万円の2割が自社の取り分」という置き方は、根拠を一度も聞かれていません。AIは疑わずに受け取り、そのまま単価5万円としてSOMにも、63億円のほう(TAM・SAM)にも使いました。
もし取り分が2割でなく1割なら、遺品整理の単価は5万円ではなく2万5000円です。筆者が置き直して計算すると、SOMは390万円から240万円へ落ちます。AIが仮置きした前提には注釈が付くのに、自分が置いた前提には誰も注釈を付けてくれない。
では、AIに任せてよかったのはどこか
確かめる場所が3つあるなら意味がないかというと、逆です。この25分の価値は、63億円という数字ではありません。
- 分解の形が手に入る … 「死亡者数 × 利用率 × 単価」という組み立ては、一度見れば自分で作り直せます
- どこが弱いかが分かる … 5%が動くとTAMは38億〜101億まで振れる。弱い前提が1か所に集中していることが、感度の表を見た瞬間に分かります
- 期待と現実の差が見える … 専務が欲しかったのは「式場に依存しない収益の柱がもう1本」でした。出てきたSOMは390万円。筆者が割ってみると、年商9億2000万円の0.4%です
最後の点が、この試算のいちばんの働きです。AIの判定は「参入推奨」で、それ自体は誤りではありません。設備が要らず、遺族との接点があり、儲けは出る。ただし柱にはならない。
取り分を上げるのか、商圏の外へ出るのか、900件の外の遺族にも売るのか ── やらない理由が見つかったのではなく、次に考えることが決まったわけです。
選択肢を広げる仕事と分解の下書きはAIが速く、その数字を信じてよいかを決める仕事は人間が持つ。25分で手に入るのは事業計画ではありません。役員会に持って行く前に、自分で潰しておくべき穴のリストです。
今日から試すには
いちばん確かめる価値があるのは、この記事の数字ではなく、あなたの会社の数字です。25〜45分ほどで、市場の大きさと、自社が現実に取れる分まで一度並べられます。並んだものが正しいかどうかは、そこから人間が決める話です。自分が入力した前提だけは、必ずご自身で疑ってください。
使ったのは、AI壁打ちツール Idea Realize AI(https://idea-realize-ai.com/)の「市場規模を試算する」です。ご利用には会員登録が必要です。無料でお試しいただける期間があり、期間終了後は自動で有料に切り替わります。最新の条件はサイトでご確認ください。
本記事について
本記事に掲載したAIの出力は、架空の企業設定を入力して得られた実際の応答です。実在の企業・団体・人物とは関係ありません。
生成AIの性質上、同じ内容を入力しても同じ出力が得られるとは限りません。掲載したのは記事作成時点の一例です。
出力に含まれる数値・予測・評価はAIによる推計であり、事実の裏付けや将来の成果を保証するものではありません。記事中でも触れたとおり、前提と合計はご自身で検算してください。
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