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なぜ良い製品を作るほど、次の売上が遠のくのか──ダイキン工業に学ぶ「効いている時間に、値段をつける」設計

なぜ良い製品を作るほど、次の売上が遠のくのか──ダイキン工業に学ぶ「効いている時間に、値段をつける」設計

(売り切ったあとの30年を、因果関係マップとTRIZで読み解く)

本記事は、手のかからない良い品物を納めているのに、次に声のかかる機会がむしろ遠のいている、という手応えのなさを抱えた方に向けたものです。ダイキン工業は、売り切りをやめないまま、納めた後の時間に代金の受け取り口を開けました。そのやり方を2つの道具で読み解くと、品質を上げて生み出した得が、いま誰の手元に残っているのかが見えてきます。

なぜ今、この問いが必要か

こんな心当たりはないでしょうか。

  • 手のかからない良い品物を納めたお客さまほど、次のご相談までの間隔が空いている
  • 品質を上げて浮いた費用も、手間が減って浮いた時間も、こちらの請求書には1行も出てこない
  • 契約は納品で終わっていて、その後に何が続いているかを言葉にしたことがない

これらは、品質が足りないのではなく、代金の受け取り口が一つしかないサインかもしれません。

機器を売り切るエアコン商売は、作って納め、代金を一度きり受け取る形でした。次の対価は、その機械が壊れるか古くなるまで発生しません。

ここで見落とされるのが、その形のままだと、消費電力を減らし壊れにくくする努力が、次の取引の機会を自分から遠ざけるという事実です。品質と売上が、同じ資産の上で逆を向きます。

大きな会社の話に見えて、これは売る物の大小を問いません。保守のいらない設備、手離れのよい仕組み、故障の少ない部品。その手間を減らしたのは自分たちなのに、減った手間の分は誰も払っていません。

根本原因を因果関係マップで可視化する

「サブスクにすればいい」という通説への反論

この話をすると、多くの方が「月額のサブスクリプションに変えればいい」と答えます。けれど順番が逆です。同社がエアコンのサブスクリプション事業の会社を設立したのは2020年6月で、対象はタンザニア1か国から始まりました。全社の連結売上高は2026年3月期で5兆150億3,600万円ですから、取り組みの範囲と会社の大きさは桁が違います。

そのうえ、納めた後に受け取り口を開ける動きは、このサブスクリプションよりおよそ30年前から始まっていました。本当の問いは「どうやって継続課金にするか」ではなく、「良くした分の得が、いま誰の手元に落ちているのか」のほうにあります。

ここで使うのが「因果関係マップ」です。問題のからくりを一枚の地図にする道具で、原因から結果へ矢印をつなぎ、いちばん奥の根本原因まで掘り下げます。

根本原因の連鎖

売り切りのまま戦おうとした側を描くと、3つの根本原因が浮かびます。機器そのものと販売・工事の網が資産の中心だということ。代金を受け取り終えるのが納品の時点だという稼ぎの形。そして、作って出荷するところまでが自分の仕事だという線引きです。

どの原因も、かつては同社の強みでした。同じ強みが、いまは動きを止める重りです。

この重りは、3つの中間原因を生みます。買った後の使われ方が作り手に戻ってこないこと。次の売上が「壊れる」「古くなる」に依存すること。良し悪しの物差しが、出荷の時点の性能に固定されることです。

一つ目は接点の置き場所の問題です。同社自身が、購入後のお客さまとのつながりがなかなか持てず、人海戦術での営業が限界に達していたと振り返っています(ビジネス+IT、2025年9月3日)。

3つが重なると、一つの結び目ができます。性能の高い機ほど最初に払う額が大きく、選ばれにくくなることです。省エネで得をするのは使う側なのに、その先払いまで使う側が負います。

そこから症状が出ます。顧客が誰で、いまどう使っているかが分からないこと。省エネと長寿命を進めるほど入れ替えの間隔が延びること。そして買えた人しか手に入れられず、設置されたのに動かない機械が残ることです。

エアコンの普及率が約1パーセントのタンザニアでは、設置済みのおよそ70パーセントが使われていませんでした(東洋経済オンライン、2021年12月24日)。10台中7台が「ゾンビ化」していた、とも言われています(PRESIDENT Online、2024年2月23日)。

行き着いた結末は、こうなります。良い製品を作る努力が、そのまま次の売上を細らせる方向に働きます。

機器を売り切っていた側の因果関係マップ
図1:因果関係マップ

同じ問いを、2つの視点で解いてみる

「なぜ良い製品を作るほど次の売上が遠のくのか。同じことを自分のビジネスでやるには」。この問いを、普通のAIに聞いた場合と、TRIZで構造から解いた場合の2通りで並べます。

観点 普通のAI回答 TRIZ×AI回答
問いの立て方 どうやって継続課金にするか(やり方を聞く) なぜ良くする努力が売上を細らせるのか(構造を聞く)
原因の捉え方 売り切り、競争激化、節約志向を横に並べる 受け取り口が一つ → 良くした分の得が相手にだけ落ちる → 良くするほど次が遠のく、と一本につながる
解の方向 一括の代金を月額に割る(払い方だけを変える) 値段をつける対象を変える(台数から、効いている時間へ)
持ち帰り 「サブスクを検討しよう」(体力のない会社は入口で止まる) 「うちが良くした分の得は、いま誰の手元に落ちているか」(請求書1枚あれば足りる)

この差分が、ビジネスの分岐点になる

普通のAIに聞いても、原因の並べ方は間違っていません。ただ、出てくる打ち手は「うちも月額にしよう」になります。月額にすると、いま入ってくる代金はそのぶん後ろへ倒れます。その谷をどう渡るかに答えが無いので、読者は「うちは体力が違う」と思って読み終えます。

TRIZで構造から解くと、払い方ではなく、値段をつける対象のほうを動かすことになります。

矛盾をどう解消したか

取り替えの時期をどうずらしても、板挟みは動きません。代金の対象を「モノ」から「効き目」へ移すと、土台のほうが変わります。邪魔な装置が消えて、欲しい働きだけが残る形へ近づける、という考え方です(TRIZでは理想性増加と呼ばれます)。

売り切りのまま戦っていた側が立っていたのは、こういう形でした。使う人のために、消費電力が小さく壊れにくい機械を作りたい。作り続けるための売上を得るには、機械が入れ替わる機会を保ちたい。両方を同じやり方の中で満たすことはできません。

ダイキン工業がやったのは、これでした。1993年から販売している業務用の空調機を対象に、24時間365日、遠隔から運転状態を監視するサービスを売ったのです(同社のニュースリリースと沿革。沿革に「1993年 空調機監視システム『エアネットサービスシステム』発売」とあります)。納めて終わりの機械が、作り手とつながります。

取引の単位が「入れ替えた台数」から「止まらず効いている時間」に変わると、省エネと長寿命は次の売上を削る行為ではなくなります。向きの違う2つが、初めて同じ向きにそろいました。

この監視には、もう一つの考え方が重ねてあります。問題が起きてから直すのではなく、起きないうちに手を打っておく、という考え方(事前無害化)です。同社は故障予知で突発的な故障を未然に防ぎ、故障時はエンジニアが緊急出動する体制を作りました。省エネ運転の支援も同じサービスに含まれます(同リリース)。

つまり、製品を変えたのではありません。代金の受け取り口を、納めた後の側にもう一つ開けただけです。

次に何が起きるか

受け取り口を増やした先で、払い方の壁にも手が入りました。2022年5月27日、同社は店舗・オフィス向けのエアコンを定額で利用できるサービスを始めます。リース会社2社との共同開発で、機器費用、取付工事費用、修理サービス費用、空調機管理サポート費用を一括して月額にまとめました(同社のニュースリリース、2022年4月12日)。機器費用と工事費用が50万円の場合で月額9,200円(税別)、契約期間は3年から7年、初期費用は要りません(同社のサービスサイト)。

もう一つは、まだ1台も持っていない人を掘る動きです。2020年6月、日・週・月ごとに使用料をスマートフォンで払い、使いたいときだけ使える形の合弁会社が設立されました(同社のニュースリリース、2020年6月16日)。利用料は1日約150円です(東洋経済オンライン、2021年12月24日)。機械が入っていない場所では、長寿命と省エネはそのまま味方になります。

そして2026年5月12日、同社は2026年度から2030年度までの5年間を対象とする戦略経営計画を発表しました。空調事業の売上高に占めるソリューション事業、つまり保守・保全や運用管理や更新プロジェクトの比率を、2025年度の28パーセントから2030年度に40パーセントへ引き上げる目標です。28パーセントは実績、40パーセントは目標値です。

同じ資料には、前の5年間の率直な総括も載っています。売上高は計画を上回った一方で、営業利益率は計画の11.0パーセントに対して8.3パーセントでした。背景に、機器のコモディティ化と競争激化による売価の低下、業務用のソリューション事業の収益化が不十分だったことを挙げています。

ここから2つは、公表された資料には書かれていません。当社の読み方です。

効いている時間を売る体制は、先に人と現場の網を持っていないと売れません。いっぽう機器は売価が下がっています。新しい柱が育つ速さより、古い柱が細る速さのほうが速いのです。成長投資に、顧客接点を強める会社の買収として5年で4,000億円という想定額を置いているのは、その裏返しに見えます。この金額も計画値です。

引き受ける範囲の広げ方も、板挟みを作ります。同社は、空調機器をこえた建物全体の設備課題をライフサイクルを通じて解決する事業へ進化させると書いています。ただ、どの会社の機械も等しく診る立場と、自社製を先に薦める立場を、同じ看板で両方名乗ることはできません。解き方があるとすれば、建物を診る役目と機械を納める役目で、契約も成績の付け方も分けて置くことです。

ダイキン工業が登る階段(Lv0→Lv4)
図2:装置ではなく、効き目に値段がつくまでの階段

上の図のいちばん上の段は、比率の数字までが会社の計画です。その先に当社が見ているのは、空気が効いていた時間そのものが取引の単位になり、機械が誰の持ち物かを問わなくなる段です。この読み方は、公開情報から構造を読んで組み立てた仮説です。

ここまでの整理

ここで一度、問題の形を整理します。使うのは、問題を「原因、作用、対象、結果」の4つに分けて見る枠組み(SEORモデル)です。困っていた時点と解けた後を並べると、解くべき課題が見えます。

機器を売り切っていた「あの時」と、ダイキン工業の「いま」── 4つの要素で見る
図3:あの時といまを、4つの要素で並べる

差を1文にすると、こうなります。解くべき課題は「どうやって買い替えてもらうか」ではなく、「良くした分の得に、まだ値段がついていない」ことでした。

あなたのビジネスへの3つの問い

ここからは主語をあなたに移します。

問い①は、納めた後も続いている状態へ、いまの契約のどこで値段がついていますか、です。手元の契約書と請求書を1件持ってきて、該当する行を指で探してください。どこにもないなら、それは無料で配っているということになります。

問い②は、お客さまは、納めた後の何が続いている状態にお金を払っていますか、です。1行で言えないなら、その状態を作っているのは誰かを確かめてください。

問い③は、品質を上げて浮いたお金と、手間が減って浮いた時間は、いまどこへ流れていますか、です。両方を書き出し、その先に誰がいるかを並べてください。

まとめ

省エネと長寿命は、それ自体が正しい努力です。それでも次の売上が細るなら、直す場所は製品ではありません。ダイキン工業はこの板挟みを、売り切りをやめないまま、納めた後の時間に受け取り口をもう一つ開けることで抜けました。開けたのは1993年で、月額の形が出てくる30年近く前のことです。因果関係マップで板挟みを見える化し、TRIZの考え方で代金の受け取り方を組み替える。この2つの道具は、特別なソフトがなくても今日から使えます。

良い物を作る努力は、どこで代金を受け取るかを決めないかぎり、お客さまの手元にだけ残ります。受け取り口は、増やすと決めた人の側にしか開きません。

今日から試すには

この記事で紹介した2つの道具、つまり問題構造を可視化する因果関係マップと、矛盾を解消するTRIZは、特別なソフトを買わなくても今日から手で描けます。

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この4要素の整理は、Idea Realize AI の Step 1-1(SEORモデル)で、自分の会社について作れます。

著者より

この記事は、成功した事例を「よその会社の武勇伝」ではなく「今のあなたの鏡」として読んでいただくために書きました。

本記事について

本記事は、公開情報をもとに、TRIZと因果関係マップを用いて筆者が独自に分析したものです。取り上げた企業の公式見解ではありません。とくに構造の解釈と今後の展開に関する記述は、TRIZの進化法則に基づく筆者の仮説であり、断定ではありません。

参考・着想元:本記事は、ダイキン工業の公開情報をもとに、独自のリバースTRIZ分析で再構成したものです。記事中の先見案は、公開情報から構造を読んで組み立てた仮説です。

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