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なぜカタログの品を増やしても、中身の違う注文は速くならないのか──ミスミに学ぶ「そろえる先を、品の形から手順へ移す」設計

なぜカタログの品を増やしても、中身の違う注文は速くならないのか──ミスミに学ぶ「そろえる先を、品の形から手順へ移す」設計

(中身の違う注文の受け方を、因果関係マップとTRIZで読み解く)

本記事は、決まった品ならすぐ値段と届く日を返せるのに、中身の違う注文になると返事に何日もかかる、という方に向けたものです。株式会社ミスミグループ本社(以下、ミスミ)は、カタログに載らない1個ずつ形の違う部品について、形を標準化してカタログに載せる道を取らず、2016年に金型用部品から meviy(メビー)を始めました。この事例に因果関係マップとTRIZを当てると、結論は1つです。相手ごとに中身の違う注文で客を待たせているなら、注文の中身ではなく、受けてから値段と届く日を返すまでの手順をそろえると、違う注文を違うまま速く受けられます。

なぜ今、この問いが必要か

こんな心当たりはないでしょうか。

  • 決まった品なら即答できる値段と届く日が、中身の違う注文になると、毎回その場で考え直しになる
  • 似た中身の注文を前にも受けていても、見積もり直すたびに値段と届く日が前回と変わる
  • 客のほうが、こちらで受けやすいように、注文の中身を直してから頼んでくる

これらは、速く返せる注文が、前もって決めておいた品に限られているサインかもしれません。

ミスミの吉田光伸氏(当時、3D2M企業体 代表執行役員企業体社長)は、2019年のインタビューで、自社に起きていたこの開きを日数で語っています。カタログで買える製品は「標準では2日で出荷」する一方、図面品(1個ずつ図面を描いて作る部品)は、図面を描くのに数週間、外部からの見積もりに1週間、作って納めるのに1週間かかり、手元に届くのは「1カ月かそれ以降」だったといいます(オートメーション新聞、2019年11月27日)。

根本原因を因果関係マップで可視化する

カタログが届いていた範囲と、その外側

ミスミの速さの土台は、部品を標準化し、型番と価格を載せたカタログから選べるようにすることでした(同社の統合報告書2025の言い方では「図面不要・型番指定の注文」)。ただ吉田氏は先のインタビューで、工場の自動機をつくるとき、自社のカタログで「買って揃えられる部品は全体の50%程度」と話しています。そのうえで、「結局どんなにカタログ品を充実させても」、図面品との差がある以上、全体のリードタイム(注文から届くまでの時間)を短くするには「限界がある」と続けました(オートメーション新聞、2019年11月27日)。

このカタログの型は、もともと1個ずつ違う部品に向けて生まれたものです。同社の統合報告書2025によれば、ミスミは1977年に金型用標準部品のカタログを創刊しました。その出発点を同社は、「一品一様の特注機械部品の中にも、実は寸法やサイズに細かい違いがあるだけで、共通のルールを設ければ標準化できる事に着目」したことだと書いています。1個ずつ違うと思われていた部品の、形のほうをそろえて速さを出してきたわけです。

吉田氏は同じインタビューで、創業以来「最も大事にしているのは『時間』」とも話しています。動いたのは売り物の時間ではなく、その時間を生むために何をそろえるかのほうです。

ここで因果関係マップ(問題のからくりの地図)を使います。起きていることを原因と結果の矢印で結び、目の前の困りごとから、それを生んでいる根っこまで順にたどる道具です。

根本原因の連鎖

地図に描くのは、品の形をそろえるカタログで受けていたころのミスミです。根っこにあったのは、次の3つでした。部品を標準化して型番・価格・納期を前もって決め、カタログに載せる仕組み。2019年に吉田氏が成長の原動力だったと語った、カタログに載せる品を増やすこと。そして、創業以来の「時間」を、品を標準化して載せることで生むという自社の捉え方です。

この重りは、3つの中間原因を生みます。カタログで揃うのは、設備に要る部品の半分ほどにとどまります(2019年の吉田氏の発言)。カタログの外にある図面品は部品ごとに設計が違い、型番も価格も前もって決めておけません。そのため、お客の側では図面品のたびに図面を描き、複数の加工会社に見積もりを頼んで手配します。同社の統合報告書2024によれば、設計は3Dデータで進めていても、調達では「紙の図面に落としてFAXで複数社に見積依頼」していました。

そこから症状が出ます。お客の設計と調達の部門は、図面を描き、見積もりを待ち、やり取りする作業に追われます。ミスミの側では、カタログを充実させても、全体のリードタイムの短縮に限界が残ります。

最後に行き着いた結果は、得意の型の外にある残り半分の遅さが、設備をつくる全体の速さの限界になることでした。カタログの品を増やすほど型に入る注文は速くなりますが、形が1個ずつ違う注文は、どこまで増やしても型に入りません。

品の形をそろえるカタログで受けていたころのミスミの因果関係マップ
図1:因果関係マップ

同じ問いを、2つの視点で解いてみる

次の問いを、2通りのAIに解かせたとします。「ミスミは、カタログに載らない1個ずつ形の違う部品で、なぜ図面を描いて見積もりを待つ時間を縮められたのか。相手ごとに中身の違う注文を、自分の仕事で速く受けるには」。片方は普通のAI、もう片方はTRIZ(数多くの発明から、板挟みの抜け方を型として取り出した手法)を土台にしたAIです。表の左側には、ミスミの事例でよく見かける読み違いを、あえて載せています。

観点 普通のAI回答(起こりがちな読み違い) TRIZ×AI回答
問いの立て方 どの道具(AI・Web)を入れたかを問う。話が道具選びに寄る 注文ごとに、何が違っていて、何は毎回同じだったかを問う
原因の捉え方 品をたくさん持って速く届けてきた強みが、特注品には効かなかったとみなす 品の違いそのものより、品が違うたびに、描く・値段を決める・作る段取りを1から組み直していたこと
解の方向 品の数を増やすか、見積もりの道具を入れる 品の形は客の言うとおりのまま、受けてから値段と届く日を返すまでの手順をそろえる。その手順に乗らない形は、乗らないと先に知らせる
持ち帰り どの道具を選ぶかで話が終わり、手を付ける注文も決められない 直近の中身の違う注文を3件並べ、受けてから値段と届く日を返すまでの作業を比べる。3件で同じだった作業に、前もって決めておける部分が隠れている

この差分が、ビジネスの分岐点になる

カタログをどれだけ充実させても、図面品として頼む半分ほどの部品は残りました。品を増やす手も、見積もりの道具を入れる手も、その半分の注文で、1件ごとに段取りを組み直していたところには届きません。

矛盾をどう解消したか

前もって値段と届く日を決めておくには、品の形をそろえる必要があります。けれど設備の部品の半分ほどは、形が1個ずつ違います。形を決めてしまえば型に入らない注文が残り、決めずに受ければ1件ずつ図面を見て見積もる手順に戻って、届くまで1か月かかる。カタログで速さを出してきたミスミは、残り半分の注文を前に、この板挟みと向き合っていました。

吉田氏は2019年のインタビューで、「標準化によるカタログ掲載が難しい領域が残ることは分かっていた」と話し、「カタログの次のイノベーション」として始めたのが meviy だと語っています。目指したのは、〝お客様が自由に描いた図面をそのまま発注できる〞ことでした。2016年に金型用部品から始めたこのサービスでは、お客が3DデータをWebに上げると、AIが図面を解析してその場で見積もりを表示し、加工できない箇所があればアラート(注意の表示)を出し、最短1日で出荷していました(オートメーション新聞、2019年11月27日)。

なぜ、形の違う部品をその場で見積もれるのか。違ってよい品の形と、決めておく手順とを、同じ1件の注文の中で切り離したからです(分離の原理)。品の形はお客が描いたまま受け、前もって決めておくのは、受けてから値段と出荷日を返すまでの手順のほうです。

お客の側では、3Dデータを2Dの図面に描き起こす段も、見積もりを待つ段も要らないまま、値段と出荷日がその場で返ってきます(理想性の増加)。いまの公式サイトも「2Dバラシ不要」「1分見積もり」と掲げています(meviy 公式サイト、2026年10月22日に確認)。

手を入れたのは、見積もりの段だけではありません。2023年6月の記者説明会を伝えた MONOist の記事(2023年6月6日)は、meviy の速さを「AI自動見積もり、製造プログラムの自動生成、自社工場でのデジタルモノづくり」によるものと書いています。同社の統合報告書2025も、特注の機械部品をつくる meviy 工場が「製造データの自動生成」を備えていると記しています。

ここまでの整理

問題を「原因、作用、対象、結果」の4つに分けて見る枠組み(SEORモデル)を使い、品の形をそろえるカタログで受けていたころのミスミ(2019年に同社の吉田氏が振り返った姿)と、描いた形のまま受け、手順の側をそろえるいまのミスミ(2025〜2026年の記述)を、左右に並べます。

品の形をそろえるカタログで受けていたころと、描いた形のまま受け手順の側をそろえるいま ── 4つの要素で見る
図2:あの時といまを、4つの要素で並べる

次に何が起きるか

同社の2026年3月期の決算報告(2026年4月30日)によれば、meviy の累計利用者数は2025年度に24万人(前年比26.3%増)になりました。統合報告書2025によれば、2024年度の meviy の売上高は159億円(前年比38%増)で、日本国内では黒字になっています。同じ報告書によれば、2024年までに日本・欧州・北米・中国・アジアの5つの地域へ広げ、2024年9月からは複数の製造パートナーから1つの場で見積もりを取れる仕組みも設けました。2019年に樹脂素材の取り扱いを始める(MONOist、2019年10月17日)など、受けられる材質や加工も足してきています。

ただし、どんな形でもそのまま受けられるわけではありません。いまの公式サイトは製造できない理由をメッセージで知らせる機能をうたい、お客の声として「メビーで加工できるような形状にあらかじめ設計しておけば、バラシにかかる時間を減らすことができます」という言葉も載せています(meviy 公式サイト、2026年10月22日に確認)。同社のプレスリリース(2026年10月5日)によれば、切削のあとに削り残りが出るおそれのある部品は、それまで自動見積もりの対象外で、人が個別に見積もるか、お客が設計を変えて上げ直す必要がありました。同日からは、切削加工の角物(最大600×400×70mm・一部の材質は対象外)であれば、削り残りの有無と場所を3Dビューワー(画面上の立体表示)で確かめ、設計した3Dデータのまま見積もり・発注できます。手順にも乗る形と乗らない形の境目があり、同社はその境目を外へ広げています。

ここまでが、同社の公表した事実です。続きは、その事実の向きを当社が延ばして立てた仮説として読んでください。

削り残りの形がお客の描き直しにも回っていたことも、先のお客の声も、乗る形に寄せて描く手間がお客の側にかかっていることをうかがわせます。手順に乗る形が増えても、この手間が続くなら、お客が自由に描いた図面をそのまま受けるという meviy の狙いと、お客の実際の描き方とは、離れたままになりうるでしょう。描いている途中に乗るかどうかが分かる形になると、描き終えてから知って描き直す段は消えるかもしれません。

ミスミが登る階段(Lv0→Lv4)
図3:そろえる先が、品の形から受け付けの手順へ移っていく階段

図の最上段には、行の頭の札が2種類あります。「事実:」の行は同社が発表している機能で、「仮説(当社の読み):」の行は当社が置いた想定です。

あなたのビジネスへの3つの問い

ここからは主語をあなたに移します。

1. あなたが受ける注文のうち、いつもの値段表や手順に乗らず、毎回その場で値段と届く日を考え直しているものは、全体のどれくらいありますか。

2. そうした注文の直近の3件を並べて、受けてから値段と届く日を返すまでの作業を比べると、3件とも同じだった作業はどれですか。

3. 同じだった作業を前もって決めておいたら、どの注文までその場で値段と届く日を返せそうですか。その手順に乗らない注文は、いま誰が、何日で返していますか。

まとめ

品の形を前もって決めて速さを出すほど、形の決まらない注文が、全体の待ち時間の足を引っぱります。ミスミはこの板挟みを、品の形は描いたまま受け、受けてから値段と出荷日を返し、作るまでの手順のほうをそろえることで抜けました。

客の注文が違うまま届くなら、そろえる先を、受けてから値段と届く日を返す手順のほうへ移す。その手順に乗る注文なら、違う注文を違うまま受けても、客を待たせる時間は縮められます。

因果関係マップで待ち時間のからくりを描き、TRIZの考え方で、そろえる先を品から手順へ移す。この2つの道具は、特別なソフトがなくても今日から使えます。

今日から試すには

この記事で紹介した2つの道具、つまり問題構造を可視化する因果関係マップと、矛盾を解消するTRIZは、特別なソフトを買わなくても今日から手で描けます。

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著者より

この記事は、成功した事例を「よその会社の武勇伝」ではなく「今のあなたの鏡」として読んでいただくために書きました。

本記事について

本記事は、公開情報をもとに、TRIZと因果関係マップを用いて筆者が独自に分析したものです。取り上げた企業の公式見解ではありません。とくに構造の解釈と今後の展開に関する記述は、TRIZの進化法則に基づく筆者の仮説であり、断定ではありません。

参考・着想元:本記事は、株式会社ミスミグループ本社の公開情報をもとに、独自のリバースTRIZ分析で再構成したものです。記事中の先見案は、公開情報から構造を読んで組み立てた仮説です。

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