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なぜ客が増えるほど、目が届かなくなり値段も上がるのか──セコムに学ぶ「見張りは仕組みに、判断と駆けつけは人に」分ける設計

なぜ客が増えるほど、目が届かなくなり値段も上がるのか──セコムに学ぶ「見張りは仕組みに、判断と駆けつけは人に」分ける設計

(人の仕事の分け方を、因果関係マップとTRIZで読み解く)

本記事は、客が増えるたびに人を足して応え、そのたびに目の届かなさと費用の重さを感じている方に向けたものです。セコム(当時の社名は日本警備保障)は1966年、建物のセンサーが異常をとらえ、知らせを受けた管制センターの指示で人が駆けつける「SPアラーム」を売り出しました。見張る仕事と、判断して動く仕事を分けた経緯を、因果関係マップとTRIZで追いかけます。読み終えるころには、あなたの仕事のうち、客の数と同じだけ人の時間を食い続けているものの見当がつくはずです。

なぜ今、この問いが必要か

こんな心当たりはないでしょうか。

  • 客が1件増えるたびに、担当者の予定表がそのまま1行ずつ埋まっていく
  • 何も起きていない時間も、誰かが張り付いて見ていないと落ち着かない
  • 人を増やすたびに、目配りと教育が追いつかなくなる

これらは、見ている仕事と、判断して動く仕事が、同じ人の上に重なっているサインかもしれません。

セコムも最初は、人が立って守る会社でした。同社の公式サイトに載る「セコム創業期物語」(社内報の連載を手直しした会社の記述)によれば、1962年の最初の契約は、人が建物を回って見張る巡回警備でした。翌1963年には、人が建物に詰める常駐警備の契約も取っています。社員は1964年ごろの約100名から、1967年には1,000名、1969年には約3,000名に増えました。

人を足して応えている最中は、足すことに追われて、仕事の分け方を見直す時間が取りにくくなります。セコムが見張りの装置づくりを頼みに行ったのは、契約が急に伸びていた、まさにその時期でした(同社公式サイト「セコム50年の歩み」、2012年10月18日)。

根本原因を因果関係マップで可視化する

「守りの厚さは、人の数と質で決まる」という通説への反論

警備は人が立って守るもので、守りの厚さは警備員の人数と質で決まる。そう考えるのが自然です。けれど、当のセコム自身が、1964年の時点でこの考え方の行き先を書き残しています。

同社が2012年10月18日に公開したコラム「セコム50年の歩み」は、東京オリンピックの警備で知名度が上がり、巡回と常駐の契約が急に伸びていた1964年11月に、なぜ新しい装置の開発に取り組んだのかを、3つの理由で説明しています。1つ目は、契約がこのまま増えていけば、将来、社員は10万人、20万人となり、管理しきれなくなって、質にばらつきが出かねないこと。2つ目は、人件費が上がっていたので、人による警備では料金が高くつき、一部の客しか使えなくなること。3つ目は、機械にできることは機械に、人間にしかできないことは人間に任せるほうが、人間の尊厳にかなうという考えです。

1つ目と2つ目は、実際に起きたことではありません。会社が、このまま進めばこうなると見込んだ姿です。それでも、人の数と質を上げ続ける道の先にあるものを、当事者が伸びている最中に読んでいました。

ここで因果関係マップ(問題のからくりの地図)を使います。起きていることを原因と結果の矢印で結び、目の前の困りごとから、それを生んでいる根っこまで順にたどる道具です。

根本原因の連鎖

人が見張り、人が駆けつける形のまま契約を伸ばした場合を、1964年に会社が見込んだ姿として描くと、根本の原因は3つです。まず、守る力は現場に立って回る人にある、という前提。次に、巡回と常駐の契約が稼ぎの柱であること。そして、自分たちを「人を出して守る会社」と定めていることです。

契約が数えるほどしかないうちは、この3つで何の不都合もありません。困るのは、契約が伸びはじめてからです。

この重りは、3つの中間原因を生みます。契約の数だけ人を増やすこと。見張りも判断も駆けつけも、同じ人の仕事になっていること。そして、人件費が上がる時代に入っていたことです。

会社の見込みでは、ここから3つの症状が出ます。社員が10万人、20万人になれば管理しきれないこと。管理が届かず、質にばらつきが出かねないこと。人による警備では料金が高くつくことです。

最後に行き着くのは、契約が増えるほど、質がばらつき、値段が上がって一部の客しか使えなくなる、という姿です。

人が見張り、人が駆けつける形の因果関係マップ(1964年に会社が見込んだ姿)
図1:因果関係マップ

同じ問いを、2つの視点で解いてみる

「セコムは、契約を増やすことと質と値段を保つことを、どうやって両立させたのか。自分の仕事に引き寄せるなら、最初に何を確かめるか」。この問いを、よくあるAIと、TRIZ(発明が矛盾をどう解いてきたかを型にまとめた手法)を使うAIに投げたときの違いを、表の4行で示します。

観点 普通のAI回答 TRIZ×AI回答
問いの立て方 どの技術を、いつ入れたか。道具の新しさを聞く 1人の人に、どんな仕事が何種類乗っていたか。仕事の中身の重なりを聞く
原因の捉え方 人手が足りない、人件費が高い、を外から来た問題として扱う 見張りも判断も同じ人が受け持つので、契約の数がそのまま人の数になる。増やすほど目が届かず、人件費の上昇が料金に乗る(会社の見込み)
解の方向 人を機械に置き換えて、人を減らす 人の仕事を、平常の見張りと、異常のときの判断と駆けつけに分け、見張りだけを機械に任せる。人は残す
持ち帰り 「機械化を検討しよう」で止まり、どの仕事から手を付けるかが定まらない 担当者の1日を、何も起きていないのに見ている・待っている時間と、判断して動いた時間に色分けする

この差分が、ビジネスの分岐点になる

表の4行のうち、2つの答えが正反対を向くのは解の方向の行です。よくあるAIは人を機械に置き換えて減らし、TRIZの側は人を残します。機械に任せるのは何も起きていないあいだの見張りだけで、何か起きたときの判断と駆けつけは人の仕事のまま残ります。人の数を削る話ではなく、人の時間の使い道を分け直す話です。

矛盾をどう解消したか

セコムが抱えた板挟みは、1人の人に、ずっと見張る仕事と、何かあれば判断して動く仕事の2つが同時に乗っていることから生まれます。会社の見込みでは、契約を増やせば人が増え、人が増えれば目が届かずに質にばらつきが出かねず、人件費の上昇で料金も高くつきます。

1966年に売り出したSPアラームは、この2つの仕事を分けました。契約先の建物に、侵入や火災をとらえるセンサーと制御器を置く。通信回線で管制センターと結ぶ。異常の信号が入ると、最寄りの緊急対処員が急行する(同社公式サイト「セコム50年の歩み」、2012年10月18日)。何も起きていないあいだの見張りと知らせは機械が受け持ち、何か起きたときの判断と駆けつけは人が受け持つ形です。

何も起きていないときと、何か起きたときで受け持つ側を分けておけば、契約を増やすことと、質と値段を保つことは引っ張り合わなくなります(分離の原理)。契約が増えたときに増えるのは主に見張りの数で、人が出ていくのは異常のときです。

1970年には、会社の記述によれば、創業者の飯田亮氏が支社長会議で「機械でやれることに人手を割くのは、人間の尊厳を損なうものだ。従って巡回警備は廃止する」と述べ、常駐警備は増やさずに大幅に値上げし、営業はSPアラーム1本で行くと決めました。前年末の契約は、巡回警備が2,000件、SPアラームが500件。巡回警備の契約先にSPアラームへの切り替えを頼むと、解約になる先も出るなど、強い抵抗があったと書かれています(同社公式サイト「セコム創業期物語」)。常駐警備は、このときもなくしていません。

SPアラームの契約は、1971年末に5,000件を超えました。同じころ、一般の電話回線で使える月額の安い普及版(1971年)が出て、管制センターも増強されました(1970年)。1969年には、SPアラームの知らせが連続射殺事件の犯人逮捕のきっかけとなり、新聞で大きく報じられています(同社公式サイト「セコム創業期物語」)。契約の伸びは、これらが重なった時期の数字です。

見張りの目を、巡回する人という粗い単位から、建物ごとのセンサーという細かい単位へ替える動き(マクロ→ミクロ移行)は、その後も続きました。1975年には、管制員が四六時中見ていた異常のランプも、異常の中身と契約先がモニターに自動で出る形に替わっています(同社公式サイト「セコム創業期物語」)。

会社は、線を引く基準も言葉にしています。異常の監視や情報の伝達といった機械でできることはセンサーなどの機械に置き換え、判断力や機動力、処置力といった人間でなければできないことは人間がやる(同社公式サイト「セコム創業期物語」)。会社が1964年に見込んだ崩れは人の数から来るものでしたが、線を引く基準は人の数ではなく、仕事の中身に置かれています。

当時の欧米には同じ方式の装置がすでにありましたが、機器を作る会社、工事をする会社、異常を見張る会社が別々で、緊急対処員が駆けつけるサービスはありませんでした(同社公式サイト「セコム50年の歩み」、2012年10月18日)。セコムは、分けた2つの仕事を1社の中でつなぎ直しています。

ここまでの整理

問題を「原因、作用、対象、結果」の4つに分けて見る枠組み(SEORモデル)を使い、分ける前と後を1枚に並べます。左は、人で見張り、人で増やした場合として1964年に会社が見込んだ姿、右は、見張りは機械、異常のときは人と分けた後の姿(1966年から1971年までの記述)です。

人で見張り、人で増やした場合と、見張りは機械、異常のときは人と分けた後 ── 4つの要素で見る
図2:あの時といまを、4つの要素で並べる

次に何が起きるか

2022年1月、同社は常駐警備のための「バーチャル警備システム」を発売しました。画面の中の「バーチャル警備員」が警戒監視や受付を受け持ち、対処や緊急対応は熟練した常駐警備員が受け持つ形です(同社公式サイト)。画面の中の警備員が応えきれないときは、常駐警備員が遠隔で通話して応対することもできます。

2026年3月31日時点で、個人・法人のオンラインセキュリティの契約は約266万件、異常のときに人が向かう緊急発進拠点は全国約2,500カ所です(同社公式サイト、2026年3月末現在)。駆けつける仕事は、いまも人が受け持っています。

ここから先の2段落に書くのは当社の仮説で、同社の発表にはない見通しです。

見張りを機械に任せたことで、契約が増えても、見張りのための人を同じだけ増やさずに済む形になりました。けれど駆けつけは人のままなので、契約と地域が広がるほど、駆けつける人と拠点が要ります。見張りの側で解いた板挟みが、人に残した駆けつけの側でもう一度起きる、と当社は読んでいます。

当社が次に見込むのは、人に残した判断を、もう一段分ける動きです。離れた場所で映像や声を確かめれば足りる判断と、その場でしかできない判断を分け、人が現場へ向かうのを本当に要るときに絞る。常駐警備員が遠隔で通話して応対できることは、その最初の一歩です。どの判断を離れた場所に任せ、どの判断に人を向かわせるか。その線の引き方が次の課題になる、と当社は考えています。

セコムが登る階段(Lv0→Lv4)
図3:平常は機械に、異常のときは人に分ける階段

階段の最上段のうち、事実として書けるのは、常駐警備員が遠隔で通話して応対できる点までです。判断をもう一段分けるという続きは、当社の仮説です。

あなたのビジネスへの3つの問い

ここからは主語をあなたに移します。

一つ目。あなたの仕事で、客が1件増えるたびに、人の時間が同じだけ増えているのは、どの仕事でしょうか。その仕事が増えた分、いま何がおろそかになっていますか。

二つ目。その仕事の中に、何も起きていないのに、見ている時間や待っている時間はどれだけありますか。そこは、通知や記録の仕組みに任せられませんか。

三つ目。任せたあとも、人が出ていかなければならないのは、どんな場面でしょうか。客から呼ばれたとき、数字がいつもと違うとき、判断に迷ったとき。

まとめ

人の数で守りの厚さを決めようとすると、契約を増やすほど、目の届かなさと値段の高さを抱えることになります。セコムはこの板挟みを、何も起きていないあいだの見張りは機械に、何か起きたときの判断と駆けつけは人に分けることで抜けました。普及版の発売や知名度と並んで、契約の広がりを支えた土台の1つです。因果関係マップで板挟みを見える化し、TRIZの考え方で人の受け持ちを組み替える。この2つの道具は、特別なソフトがなくても今日から使えます。

今日から試すには

この記事で紹介した2つの道具、つまり問題構造を可視化する因果関係マップと、矛盾を解消するTRIZは、特別なソフトを買わなくても今日から手で描けます。

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この4要素の整理は、Idea Realize AI の Step 1-1(SEORモデル)で、自分の会社について作れます。

著者より

この記事は、成功した事例を「よその会社の武勇伝」ではなく「今のあなたの鏡」として読んでいただくために書きました。

本記事について

本記事は、公開情報をもとに、TRIZと因果関係マップを用いて筆者が独自に分析したものです。取り上げた企業の公式見解ではありません。とくに構造の解釈と今後の展開に関する記述は、TRIZの進化法則に基づく筆者の仮説であり、断定ではありません。

参考・着想元:本記事は、セコムの公開情報をもとに、独自のリバースTRIZ分析で再構成したものです。記事中の先見案は、公開情報から構造を読んで組み立てた仮説です。

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