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なぜ良い施設を持つほど、増やす速度が落ちるのか──星野リゾートに学ぶ「持つ役と回す役を分ける」設計

なぜ良い施設を持つほど、増やす速度が落ちるのか──星野リゾートに学ぶ「持つ役と回す役を分ける」設計

(所有と運営の分離を、因果関係マップとTRIZで読み解く)

本記事は、良いものを持っているのに事業が増えていかない、という手詰まりを感じている方に向けたものです。星野リゾートは、旅館の力の源とされてきた土地と建物のほうを手放しました。足したのではなく、重いほうを他人に渡しています。その判断を2つの道具で分解すると、あなたの会社が持つものを「強いから持っている」のか「持っているから遅い」のかで分けられるようになります。

なぜ今、この問いが必要か

こんな心当たりはないでしょうか。

  • 良い設備も良い立地も持っているのに、2軒目、3軒目がなかなか増えない
  • 手元の資産を守るための資金繰りに、経営の時間の多くが取られている
  • 儲かっている事業ほど、細くする判断が先延ばしになっている

これらは、力が足りないのではなく、持ち方が上限になっているサインかもしれません。

日本の宿泊業は長いあいだ、土地と建物を自分で持ち、そこで客をもてなす形で成り立ってきました。所有と運営が一体、という前提です。これが最も強く働いたのが1980年代後半でした。星野リゾートの星野佳路氏は財務省の職員向け講演で、1987年に制定された総合保養地域整備法、いわゆるリゾート法の適用を受けて、日本全体でリゾートホテルや旅館の部屋数の供給量が劇的に増えた、と述べています(財務省「ファイナンス」2022年4月号 職員トップセミナー講演録)。良い施設を持つことに資本が集まり、施設は確かに増えました。そのあと資産価値が下がると、手元に残るのは施設ではなく負債になります。所有と運営が一体である以上、この順番は避けられません。

ここで競争の土俵が動きます。「どれだけ良い施設を持つか」から「その施設をどう回すか」へ。ところが所有と運営が一体のままだと、回す腕を磨く前に、持つことの重さで動けなくなります。

なぜ今かというと、同じ構図が宿泊業の外側で起きているからです。設備もシステムも人材も、「持っているから強い」と信じているものが、そのまま次の1歩までの距離になっています。数字が悪くなってから考え直しては、選べる相手がすでに減っています。

根本原因を因果関係マップで可視化する

「サービスが良かったから」という通説への反論

星野リゾートがなぜ伸びたのかを聞くと、多くの方が「おもてなしの質が高いから」「ブランド力があるから」と答えます。けれど、これでは説明になっていません。同じ時期に、サービスを磨くことへ全力を注いだ旅館は数え切れないほどありました。本当の問いは「なぜ同じサービスを目指した宿が、増やせなかったのか」のほうにあります。

決断の理由は、本人の言葉として残っています。星野氏は先の講演で、供給過剰状態であるということは事業者がしばらく収益を出せない状態なので、運営のうまい会社に任せてもらえるチャンスが出てくるから、と語っています。そして、フィービジネス、サービス業に変わっていこうという判断を、これまでの30年間で最大かついちばん良い決断だった、と振り返っています(同講演録)。見ていたのはサービスの質ではなく、業界全体が持つことの重さに沈んでいく構図のほうでした。

ここで使うのが「因果関係マップ」です。問題のからくりを一枚の地図にする道具で、原因から結果へ矢印をつなぎ、いちばん奥の根本原因まで掘り下げます。

根本原因の連鎖

所有を抱えたまま立て直そうとした立場を因果関係マップで描くと、3つの根本原因が浮かびます。第一に「土地と建物を持つことこそ旅館の力だ」という前提。第二に「稼ぎの柱は所有による利益だ」という事業構造。第三に「自社は旅館を経営する会社だ」という自己定義です。

3つとも、過去に成功をもたらしたものです。成功資産が、そのまま転換の重りになります。

この重りは、3つの中間原因を生みます。設備投資が自己資金と借入の範囲に縛られること。施設が増えないので、運営の腕が育たないこと。そして持っているがゆえに、不振な施設を手放せないことです。

2つ目は見落とされがちです。運営の腕は施設の数だけ育つので、増やせない会社は腕を磨く回数も失います。

そこから症状が出ます。1軒の立て直しに時間がかかること。需要の変動に身動きが取れないこと。行き着く先は、良い施設を持っているのに、増やす速度でも立て直す速度でも負ける、という結末です。多くの事業者はこの結末を「資金が足りないから」と読みました。星野リゾートは「持ち方が違うから」と読みました。

所有を抱えたまま立て直そうとした立場の因果関係マップ
図1:因果関係マップ

同じ問いを、2つの視点で解いてみる

「なぜ星野リゾートは伸びたのか。同じことを自分のビジネスでやるには」という問いを、2つの視点で解いてみます。

普通のAIに聞くと、こんな回答が返ってきます。「サービスとブランド力が高いから」「だから自社もサービスを磨き、ブランドを作りましょう」。間違いではありません。けれど、なぜ同じサービスを目指した宿が増やせなかったのかが抜け落ちています。持ち帰りは「ブランドを強くしよう」で終わります。

TRIZの視点で同じ問いを考えると、景色が変わります。3つの根本原因はすべて持ち方の話で、サービスの質は1つも入りません。そのうえで「持てば速度が落ち、持たなければ取り分が減る」という板挟みを名指しできます。

観点 普通のAI回答 TRIZ×AI回答
問いの立て方 なぜ成功したか なぜ他社には同じことができなかったか
原因の捉え方 サービスとブランド力が高いから 「持つことが力」という前提が、増やす速度の上限になる構造
解の方向 サービスを磨く、ブランドを作る 一体のものを役割で切り分け、重い側を他人に渡す
持ち帰り ブランドを強化しよう 自社が「持っているから強い」のか「持っているから遅い」のかを点検する

この差分が、ビジネスの分岐点になる

差分は1行で言えます。普通のAIは現象を説明して努力を促します。TRIZは板挟みを名指しし、持ち方そのものを組み替えます。「持ち続けるか、手放すか」で考えているうちは、利益の大きさか増やす速度のどちらかを必ず失います。どちらかを選ぶのをやめた瞬間に、三つ目の道が見えます。

矛盾をどう解消したか

星野リゾートが直面していたのは、次の板挟みです。1軒あたりの利益を大きくするには、土地と建物を自分で持ちたい。増やす速度を上げるには、持たずに運営だけを引き受けたい。同じ会社が、同時には立てられません。

ここで効くのが、対立する2つを別々の主体に振り分けて両立させる、という考え方です(TRIZでは分離の原理と呼ばれます)。持つ役と回す役を、1つの会社の中で選ばずに別々の相手へ割り当てる。分けた瞬間、利益の上限は資本を出す側が引き受け、増やす速度は自社が取れます。土俵そのものを外す打ち手です。

星野氏が会社を継いだのは1991年です(本人の講演録)。その翌年の1992年、同社グループは「ホテルの所有を本業とせず、運営に特化する」という企業将来像を発表しています(星野リゾート・アセットマネジメントの公式沿革)。掲げたビジョンの言い方は「リゾート運営の達人になる」でした。押さえていただきたいのは、この宣言が業界に施設が増え切った直後に出ている点です。収益が出せない時期が来てから持ち方を考えたのではなく、来ると読んだところで先に宣言しています。

切り分ける前に、もう一つ要ったものがあります。自己定義の置き直しです。旅館を「経営する」会社のままでは、自社で持たない施設は仕事の対象になりません。「運営する」会社と名乗り直したから、他人が持つ施設の運営を引き受けられるようになりました。

宣言のあと、順に段が上がります。2005年、ゴールドマン・サックスをパートナーとして旅館再生事業を開始し、同社が日本で所有するリゾート施設の運営を受託しました。他人が所有する施設を、自社の腕で回す形が実際に動き始めます。

そして2013年、所有していた施設を証券化し、星野リゾート・リート投資法人を東京証券取引所に上場させています。起きたのは資金調達というより、所有の受け皿を市場に作ったことです。自社の枠の中で相手を探すのをやめ、一つ上の仕組みに乗せ替えました(スーパーシステムへの移行という考え方です)。

結果はどう表れたか。ポーター賞2014の受賞レポートは、2014年時点で同社が日本国内で32の施設を運営していること、そして施設を保有しないことでマスター・ブランドの下に急速に運営施設数を増やすことができた、と記しています。同レポートは、マルチタスクの採用によって労働生産性を改善している点にも触れています。持たずに済ませ、働きだけを残す。TRIZで理想性を高めると呼ぶ方向です。

2024年4月時点で、同社は「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO」「BEB」の5ブランドを中心に、国内外69施設を運営しています。2014年の32施設から、10年で倍以上です。増えたのは、持っている数ではなく回している数のほうです。

次に何が起きるか

ここからは、進化の方向を構造的仮説として描きます。

これまでの動きを一本の見方で並べ直すと、階段になります。1軒を自分で持って自分で回す段から、持つのをやめて運営だけを引き受けると決めた段へ。次に、他人が持つ施設の運営を実際に受託する段へ。さらに、所有の受け皿を市場から作る段へ。ばらばらの経営判断に見えるものが、持つ役と回す役を分ける一本の階段の各段だと分かります。

星野リゾートが持つ役と回す役を分けていく階段(Lv0→Lv4)
図2:持つ役と回す役を分ける階段

図の最上段は、これから先の段として置いたものです。運営の型そのもの、つまりブランドと運営手順を施設の外へ出して商品にする方向を指しています。これは公表された計画ではなく、公開情報から構造を読んで組み立てた仮説です。

面白いのは、板挟みを解いた先で、別の板挟みが立ち上がる点です。運営を引き受けた対価は、所有による利益より薄くなるはずです。薄い取り分で成り立たせるには、数を増やし続けることになります。ところが数を増やすほど、1施設に置ける人は薄くなります。質と数が、ふたたび同じ土俵に戻ってきます。

抜け道は3つ考えられます。時間でずらす道は、立ち上げ期だけ厚く人を置き、型ができた段から薄くします。条件でずらす道は、ブランドごとに人の厚みを変えます。そして持ち方そのものをずらす道は、質を「人の数」ではなく「引き継げる手順」に置き換えます。

論点はもう2つあります。1つは、所有を市場に預けた以上、資本を出す側の利回りの要求が運営の自由度を縛りうること。投資家に見せる指標と現場が動かす指標を、施設ごとに切り分ける打ち手が考えられます。もう1つは、施設が増えるほどブランドの中身が薄まること。ブランドを「宿の格」ではなく「その土地でしかできない体験の束」として定義し直す方向です。いずれも、同社の計画を示すものではありません。

あなたのビジネスへの3つの問い

ここからは主語をあなたに移します。星野リゾートの物語を鏡にしてください。

問い①は、あなたの会社がいま持っているもののうち、「持っているから強い」ものと「持っているから遅い」ものを、それぞれ1つずつ書けますか、です。設備でも店舗でも在庫でも、抱えている業務でも構いません。同じものが両方に入るなら、いまどちらの側面が効いているかで決めてください。

問い②は、その「遅い」ほうを、誰に渡せますか、です。相手が思い浮かばないなら、本当に重いのか、渡し方を考えたことがなかっただけなのかを分けてみてください。

問い③は、身軽になった代わりに、何を諦めることになりますか、です。分離は魔法ではなく、取り分は必ず薄くなります。薄くなった取り分で成り立つ形を先に描けるかが、分ける判断の分かれ目です。

まとめ

持つことが力だった時代の成功前提は、そのまま増やす速度の上限になります。星野リゾートはこの板挟みを、持ち続けるか手放すかで選ばずに、持つ役と回す役を別々の主体へ振り分けて抜けました。しかもその宣言を、業界が収益を出せなくなる時期の入口で出しています。因果関係マップで板挟みを可視化し、TRIZの考え方で持ち方を組み替える。この2つの道具は、特別なソフトがなくても今日から使えます。

今日から試すには

この記事で紹介した2つの道具、つまり問題構造を可視化する因果関係マップと、矛盾を解消するTRIZは、特別なソフトを買わなくても今日から手で描けます。

もしくは、専門性に特化させたAI壁打ち用のツールサイト
Idea Realize AI(https://idea-realize-ai.com/)
をご用意しました。このサイトの「TRIZの各種手法」や「フロー図メーカー」をお使いいただくことで、本記事のようにAIと深掘りした議論ができます。

著者より

この記事は、成功した事例を「よその会社の武勇伝」ではなく「今のあなたの鏡」として読んでいただくために書きました。持っているものを手放す話は、たいてい怖い話として届きます。それでも、持ち方を疑わないまま増やそうとすると、増えない理由を資金のせいにし続けることになります。

本記事について

本記事は、公開情報をもとに、TRIZと因果関係マップを用いて筆者が独自に分析したものです。取り上げた企業の公式見解ではありません。とくに構造の解釈と今後の展開に関する記述は、TRIZの進化法則に基づく筆者の仮説であり、断定ではありません。

参考・着想元:本記事は、星野リゾートおよび関連法人の公開情報、ならびに星野佳路氏の公開講演録をもとに、独自のリバースTRIZ分析で再構成したものです。記事中の先見案は、公開情報から構造を読んで組み立てた仮説です。

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