AI リバースTRIZ 仕組み

なぜ顧客の課題を解くほど自社が損をするのか──コマツに学ぶ「競合の機械まで載る場を取る」設計

なぜ顧客の課題を解くほど自社が損をするのか──コマツに学ぶ「競合の機械まで載る場を取る」設計

(建設現場のDXを、因果関係マップとTRIZで読み解く)

本記事は、顧客の困りごとを本気で解こうとするほど、自社の売り物が減っていくのではないか、という不安を持つ方に向けたものです。建設機械のコマツは、まさにその構造の中にいました。そして機械が売れなくなる方向にしか答えがない場所で、他社製の建機まで載る場を持つ側へ回ります。その選び方を、因果関係マップとTRIZという2つの道具で分解します。読み終えたとき、あなたは自社が守っているものの正体を言葉にできるようになります。

なぜ今、この問いが必要か

こんな心当たりはないでしょうか。

  • 顧客の生産性を上げる提案をするほど、自社の売上や工数が減っていく
  • 自社の商品まわりは改善し尽くしたのに、顧客の満足はそれほど変わらない
  • 競合と同じ機能を同じ値段で並べ、あとは価格と納期で比べられている

これらは、自社の売り物の内側だけで良くなろうとしているサインかもしれません。

建設業の現場は、この問いが最も先鋭に出る場所です。建設業で働く人はピーク時の1997年に685万人でしたが、2024年の平均は477万人まで減りました。約3割減です。同じ資料の最新値(2025年)では、55歳以上が36.6パーセント、29歳以下は11.9パーセントとなっています(国土交通省の参考資料集、2026年4月)。人が減る以上、1人あたりの施工量を上げなければ工事は回りません。

ところが、ここに落とし穴があります。機械を速くしても、その前後にある測量・設計・検査が紙とアナログのままなら、現場全体は速くならないのです。つまり競争の場は、いつのまにか「機械の性能」から「現場全体の生産性」へ移っていました。

なぜ今かというと、AIによって誰もが同じ道具を持てる時代になったからです。道具の性能で差がつかなくなった今、差になるのは「どこからどこまでを自分の仕事と見なすか」という線の引き方です。この記事を読み終えたとき、あなたはその線を一段外側に引き直せるようになります。そしてその先には、競合が製品の性能を磨き合っている間に、あなたがその製品ごと載る場所を先に押さえている、という状態が見えてくるはずです。

根本原因を因果関係マップで可視化する

「技術力があったから先行できた」という通説への反論

コマツが施工全体のデジタル化で先を行けた理由を聞くと、多くの方が「技術力があったから」「早く測位と制御を載せた建機(ICT建機)を出したから」と答えます。けれど、これは説明になっていません。測位の技術もドローンも、買おうと思えば買えます。資金も販売網も持っている会社は他にもありました。では、なぜ同じことが起きなかったのか。本当の問いはここにあります。

ここで使うのが「因果関係マップ」です。これは問題のからくりを一枚の地図にする道具で、原因から結果へと矢印をつなぎ、いちばん奥にある根本原因まで掘り下げて見える化します。

根本原因の連鎖

建機を売り切るモデルのまま留まった立場を因果関係マップで描くと、3つの根本原因が浮かびます。第一に「建機と代理店網こそ最大の資産だ」という前提。第二に「機械の販売と交換部品が収益の柱だ」という事業構造。第三に「自社は機械をつくって売る会社だ」という自己定義です。

注目していただきたいのは、この3つがどれも過去に成功をもたらしたものだ、という点です。成功資産がそのまま転換の重りになっています。

この重りは、3つの中間原因を生みます。売った後にどう使われたかがメーカーに戻ってこないこと。生産性が上がるほど必要な機械の量と稼働時間が減ること。そして自社製の機械しか見ないので、現場の全体像がそもそも取れないことです。

そこから症状が出ます。測量・設計・検査が遅いままで現場全体は速くならない。機械の性能は飽和し、同じ性能なら安いほうへ置き換わっていく。行き着く先は、顧客の本当の困りごと、つまり人手不足に届かないまま、担い手が減るなかで機械を売る土俵そのものが縮んでいく、という結末です。

建機を売り切るモデルの因果関係マップ
図1:因果関係マップ

同じ問いを、2つの視点で解いてみる

「なぜコマツは施工全体のデジタル化で先行できたのか。同じことを自分のビジネスでやるには」という問いを、2つの視点で解いてみます。

普通のAIに聞くと、こんな回答が返ってきます。「ICT建機を早く導入したから」「技術力が高いから」「だから自社もデジタル化を進めましょう」。間違いではありません。けれど、なぜ他社は同じことをやらなかったのかが抜け落ちています。機械もドローンも買えるのに土俵が移らないのは、技術ではなく稼ぎ方の構造が止めているからです。読者の持ち帰りは「デジタル化しよう」で終わってしまいます。

TRIZの視点で同じ問いを考えると、景色が変わります。根本原因は3つとも構造の話で、技術の遅れは1つも入りません。そのうえで「顧客の課題を解くと自社の売り物が減る」という板挟みを名指しできます。さらに、売り切るモデルに留まった側には見えていなかったものまで見えてきます。それは、競合の機械が自分の収入源になり得る、ということです。

観点 普通のAI回答 TRIZ×AI回答
問いの立て方 何をデジタル化したか なぜ他社は同じことをできなかったか
原因の捉え方 技術導入の早さ・技術力 稼ぎ方と自己定義が転換を止める構造
解の方向 デジタル技術を導入する 売り物を一つ上の目的へ移し、競合が載る場は分けて持つ
持ち帰り 変化に対応しよう 自社の売り物が減る方向にしか答えがない領域を、先に見つける

この差分が、ビジネスの分岐点になる

差分は1行で言えます。普通のAIは現象を説明して対策を促します。TRIZは板挟みを名指しし、土俵そのものを組み替える設計を示します。「機械をつくって売る会社」という定義のままなら、他社製のショベルは自社の商圏の外にある邪魔者です。定義を一段上げた瞬間、同じ機械が「自分の場に載ってくれる顧客」に変わります。見えているものは同じで、意味だけが反転しています。

矛盾をどう解消したか

コマツが直面していたのは、次の板挟みです。顧客に選ばれ続けるには施工の生産性を上げたい。けれど今の稼ぎを守るには、機械の販売台数と稼働時間を保ちたい。生産性が上がるほど必要な機械は減り、かといって効率化に関わらなければ、機械は同じ性能で安いほうへ置き換えられていきます。守れば顧客の課題に届かず、解けば自社の売り物が減る。どちらも立てられない状態です。

ここで効くのが、一つ上の目的へ移るという考え方です(技術システム進化の法則のひとつで、スーパーシステムへの移行と呼ばれます)。売る対象を「機械」から「施工の生産性」へ置き直すと、機械は自分の商品ではなく、上位の仕組みを構成する一部品として読み替えられます。コマツは機械に測位と制御を載せるところから始め、やがて測量から完工までを1つの流れとしてつなぎました。EARTHBRAINが公式サイトで掲げる対象範囲は「測量から完工まで、すべての工程」です。

ただし、目的を一段上げただけでは板挟みは残ります。自社の機械を売って稼ぐことと、他社の機械も載る場で稼ぐことは、同じ会社の中では食い合うからです。ここで使われたのが、対立する2つを別々の場所や条件に振り分けて両立させる考え方(分離の原理)でした。コマツは2021年4月、NTTドコモ、ソニーセミコンダクタソリューションズ、野村総合研究所とともに、EARTHBRAINという別会社の設立に合意します。出資はコマツが54.5パーセントで過半を持ちました(NTT側の株主表記は現在、NTTドコモビジネスとなっています)。設立の目的は「建設現場における生産の全工程をオープンプラットフォームでデジタルにつないで最適にコントロールすること」だと同社の発表資料に明記されています。

オープンという言葉が実物として現れているのが、後付け用の機器です。スマートコンストラクション・レトロフィットキットは、コマツ製の建機だけでなく機種を問わず後付けが可能だと公表されています(2020年10月のコマツ発表。6トン以上クラスの油圧ショベルと、6トン未満クラスのミニショベルが対象)。ただし積み荷の重さを測る機能については、同じ発表の中で、導入初期はコマツの機種のみが対象予定と案内されており、すべての機能が全機種で同じように使えるわけではありません。それでも方向ははっきりしています。競合の機械を自社の商圏の外に置くのをやめ、自分の場に載せる側へ回ったのです。

次に何が起きるか

ここからは、進化の方向性を構造的仮説として描きます。

これまでの動きを一本の見方で並べ直すと、階段になります。機械1台の性能で競う段から、機械に測位と制御を載せる段へ。そこから測量から完工までを1つの流れにつなぐ段へ。そして他社製の建機も載る場を持つ段へ。バラバラの取り組みに見えていたものが、一つ上の目的へ移り続ける同じ階段の各段だと分かります。

コマツが一つ上の目的へ登る階段(Lv0→Lv4)
図2:一つ上の目的へ移る階段

面白いのは、板挟みを解いた先で、新しい板挟みが生まれている点です。場を開くほど、その場に載る機械が自社製である必要は薄くなります。他社の機械でも同じ体験が得られるなら、機械そのものの選ばれる理由は弱まります。場が中立であるほど機械は選ばれにくくなり、自社機を優遇するほど場としての価値は下がる。かつて「機械という資産」が転換の重りになったように、今度は「場という資産」が同じ役を演じ始めるのではないでしょうか。資産が重りに変わる形は、階段を上っても消えず、姿を変えて再演します。

抜け道の方向は2つ考えられます。1つは時間でずらす道です。場は中立に保ったまま、その次の段、つまり人が運転しなくても計画どおりに土が動く自動化への対応度で、機械側の差をつけるやり方です。もう1つは条件でずらす道です。難工事や無人化が必要な現場に限って自社機の強みが効く形にする、という考え方になります。

もう一つ、場が育つほど確実に浮かび上がる論点があります。現場のデータが集まるほど、そのデータは誰のものかが問われる、という論点です。これは問題が起きる前に起きないようにしておく考え方(事前無害化)が効く領域で、発注者や施工会社との間で、データの権利と使い道を先に取り決めておく形へ進むと考えられます。なお、ここに書いた次の板挟みと打ち手は、公開情報から構造を読んで組み立てた仮説であり、同社の計画を示すものではありません。

あなたのビジネスへの3つの問い

ここからは主語をあなたに移します。コマツの物語を、あなたの鏡として使ってください。

問い①は、あなたの会社がいま解いている顧客の問題は、解けば解くほど自社の売上が減る方向にありませんか、です。もしそうなら、それは避けるべき領域ではなく、いちばん深い板挟みが眠っている場所です。因果関係マップで、その連鎖を描いてみてください。

問い②は、あなたの「一つ上の目的」は何ですか、です。売っているものの名前ではなく、顧客が本当に実現したいことの言葉で書けるかどうかが、次の土俵の場所を教えてくれます。書けないうちは、まだ自社の商品の内側で考えています。

問い③は、その上位の目的の場に、競合の製品が載ることを許せますか、です。許せないと感じたなら、あなたは何を守っているのでしょうか。守っているものの名前が言えたとき、それが転換の重りの正体です。

まとめ

建機を売り切るモデルに留まる限り、顧客の課題を解くことと自社の稼ぎを守ることは、どこまでいっても食い合います。コマツはこの板挟みを、売る対象を一つ上の目的へ移すことと、他社製の機械も載る場を別会社として切り出すことの2つで抜けました。因果関係マップで自社の板挟みを可視化し、TRIZの考え方で土俵を組み替える。この2つの道具は、特別なソフトがなくても今日から使えます。

今日から試すには

この記事で紹介した2つの道具、つまり問題構造を可視化する因果関係マップと、矛盾を解消するTRIZは、特別なソフトを買わなくても今日から手で描けます。

もしくは、専門性に特化させたAI壁打ち用のツールサイト
Idea Realize AI(https://idea-realize-ai.com/)
をご用意しました。このサイトの「TRIZの各種手法」や「フロー図メーカー」をお使いいただくことで、本記事のようにAIと深掘りした議論ができます。

著者より

この記事は、成功した事例を「よその会社の武勇伝」としてではなく「今のあなたの鏡」として読んでいただくために書きました。競合の製品を自分の場に載せるという判断は、自社の売り物を相対的に小さくする判断でもあります。あなたの事業で、それに当たるものは何か。その問いを立て直すきっかけになれば幸いです。

本記事について

本記事は、公開情報をもとに、TRIZと因果関係マップを用いて筆者が独自に分析したものです。取り上げた企業の公式見解ではありません。とくに構造の解釈と今後の展開に関する記述は、TRIZの進化法則に基づく筆者の仮説であり、断定ではありません。

参考・着想元:本記事は、国土交通省の統計資料、ならびにコマツおよびEARTHBRAINの公開情報をもとに、独自のリバースTRIZ分析で再構成したものです。記事中の先見案は、公開情報から構造を読んで組み立てた仮説です。

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