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事例が解いた地点の、一段手前に置く ── 構造転用でいちばん考えたこと

事例が解いた地点の、一段手前に置く ── 構造転用でいちばん考えたこと

本記事に出てくる税理士法人は架空の設定です。実在の企業・団体とは関係ありません。オリーブガーデンのみ、公開情報にもとづく実名です。

事例が転用できないのは、業種で読んでいるからです

「うちの業種とは違うから」。事例を読んだあと、そう言って本を閉じたことはないでしょうか。使えないのは事例のせいではありません。業種のまま読んでいるからです。

オリーブガーデンは、米国に約900店を構えるイタリアンチェーンです。店頭の行列を消し、待つ場所を客のスマホへ移しました。この話を「飲食店がアプリで成功した」と読むと、飲食以外の人の手元には何も残りません。

けれど、この店を分析した回から借りたのは、飲食の言葉が1つも入らない形でした。効率を上げるほど、相手の体験が痩せる。速くさばけば体験が薄くなり、丁寧にすれば数がこなせない。この板挟みは、人が人を相手にする商売なら、どこでも起きます。

この記事では、その形を架空の税理士法人へ移すまでの手つきを書きます。いちばん考えたのは、置き換える先ではありませんでした。事例のどの地点に置くか、です。オリーブガーデンはこの板挟みを解いた側ですが、税理士法人は解く前に置きました。なぜ一段手前に戻したのかを、捨てた案と一緒に並べます。

業種の言葉を、一段ずつ剥がす

オリーブガーデンの板挟みを、もう一度置きます。席の回転を守るには予約を取りたくない。けれど客の待ちと不安をなくすには順番を管理したい。

ここから業種の言葉を、一段ずつ剥がします。一気に「要するに効率と質の対立だ」と言わないことが大事です。段を飛ばすと、読者は同じ手順を再現できません。

一段目。「席の回転率」を「1人あたりの持ち件数」に置き換えます。ここで飲食という限定が外れます。1人が何件を抱えるか、という数え方だけが残ります。

二段目。「客を店頭で待たせる」を「相手への関与が薄くなる」に置き換えます。ここで場所の話が、関係の話に変わります。待たせるという言葉は、店頭という場所とセットでした。場所を外すと、相手に向けられる分量が減る、という意味だけが残ります。

三段目。「中途半端という評価で客足が伸び悩む」を「相手が離れていく」に置き換えます。評価も客足も飲食の言葉です。落とすと、結果の形だけが残ります。

すると、板挟みはこう書き直せます。1人あたりの担当量を増やすほど、1件あたりの関与が薄くなり、相手が離れる。かといって増やさなければ、売上が伸びない。

ここまで来ると、業種の言葉は1つも残りません。残るのは形だけです。この形が、次に置き換える対象になります。

なお、この段階で落としたものがあります。アプリ、事前決済、順番待ちの登録、待ち時間を5分刻みで見せる仕組み。どれもオリーブガーデンの見どころですが、これらは解き方であって、板挟みの形ではありません。持っていくと、置いた先が「アプリを作る話」になります。

取り出した形を、2つの場所に置いてみる

置けた例:地方都市の税理士法人

オリーブガーデン 置き換えた先
席の回転率 担当者1人あたりの顧問先数(25〜30社)
客を店頭で待たせる 顧問先への訪問・連絡が薄くなる
中途半端という評価で客足が伸び悩む 毎年8〜10件の解約が出る
待つ場所を店の外へずらして両立させた まだ解いていない

対応表のいちばん下が、この転用でもっとも考えた場所です。

オリーブガーデンは、解いた側の事例です。待つ場所と時間をずらし、両立させました。けれど税理士法人のほうは、あえて解く前に置きました。一段手前に戻した、と言ってもいいです。

理由は、置いた先で何を扱いたいかにあります。この事務所には、代表から「来期は顧問料収入を1.2倍」という数字だけが下りてきています。現場に渡せる言葉は「頑張れ」しかありません。訪問回数の記録はなく、何回訪問すればいいのかも、そもそも訪問回数が効いているのかも分かっていません。

つまり、解き方を選ぶ以前の段階です。何を測れば両立しているかが分からない。ここが、多くの会社が実際に止まっている場所ではないでしょうか。

置き直すと、問いの形が変わります。「どうやって両立させたのか」ではなく「両立しているかどうかを、何で測るのか」。目標を数字に割った回でAIに相談したのは、この置き換えから自然に出てきた問いです。

置けなかった例:飲食チェーンのまま作る

最初に浮かんだのは、実はこちらです。同じ飲食で、回転率と接客の質の板挟みをそのまま置く。板挟みは当然そのまま成立します。それでも使いませんでした。

近すぎるからです。3段かけて剥がした業種の言葉を、最後に自分で戻すことになります。できあがるのはオリーブガーデンの縮小版で、構造の転用ではなく事例の模倣です。

判断基準は1つ。置く先は、剥がした言葉が戻ってこない場所から選びます。

何を捨てたか

置き先の候補も、置いたあとの設計も、採用したものより捨てた判断のほうが手順としては役に立ちます。

整体や美容室に置く案。1日の予約枠を詰めるほど施術が雑になる、という形で板挟みはきれいに成立します。捨てた理由は構造ではありません。この連載では先に葬祭ホールを扱っていて、サービス業が重なるからです。業種の偏りを直したくて置き換えるのに、偏りが強くなります。書き手側の都合です。

最終ゴールの数字を「解約率」にする案。解約はいちばん痛い症状です。捨てた理由は、板挟みの片側しか見ないことになるからです。減らすほうだけを目標にすると、増やすほうが計画から消えます。代表から下りている言葉は「顧問料収入1.2倍」なので、そちらを最終ゴールに置き、解約は制約条件として残しました。

訪問回数の現状値を作る案。「月平均1.8回」とでも置けば、話はずっと早く進みます。捨てた理由は、測っていないことこそが症状だからです。現状値を作ると、この会社がいる場所そのものが変わってしまいます。未計測のまま置く、と決めました。

借りなかったものもあります。約900店という規模、アプリ、事前決済、順番待ちの登録。これらはオリーブガーデンの中身であって、形ではありません。

捨てた案には共通点があります。どれも板挟みは成立していました。成立するかどうかでは選べません。選ぶ基準は案ごとに違います。1つに決めて探すと手が止まります。

あなたの会社でやる手順

ステップ1。気になる事例の板挟みを一文にします。「◯◯を守るには△△を減らしたい。けれど□□をなくすには△△を増やしたい」という形です。ここで社名も業種名も使いません。

ステップ2。その一文から業種の言葉を3段かけて剥がします。一段目で数え方を置き換える。二段目で場所の言葉を関係の言葉に変える。三段目で結果の言葉を落とす。段を飛ばすと、自社に置くときに戻せません。

ステップ3。自社に置いて対応表を作り、置く地点を決めます。事例が解いた地点か、その手前か。「何を測ればいいか分からない」なら、手前です。やるのは、解き方探しではなく、測るものを決めることです。

問題のからくりを可視化する因果関係マップも、矛盾を解消するTRIZも、特別なソフトは要りません。紙とペンがあれば、今日から描けます。

手前だと分かったあと、手が止まるという方は、AI壁打ちツール Idea Realize AI(https://idea-realize-ai.com/)の「目標を数字で管理する」があります。目標を数字に割った回では、この事務所の設定を入れて10往復・20分で並べました。ご自身の会社でも20〜40分ほどで並べられます。掛け算が目標に届いているかだけは、ご自身で検算してください。ご利用には会員登録が必要です。無料でお試しいただける期間があり、期間終了後は自動で有料に切り替わります。最新の条件はサイトでご確認ください。

本記事について

この記事は、bp-d.com の「なぜあの店は行列ができても客を逃さないのか──オリーブガーデンに学ぶ「待たせる場所をずらす」発想」(https://bp-d.com/?p=3881 )と「「1.2倍」を、現場が毎週見る数字に割る ── AIと目標を設計した10往復の記録」(https://bp-d.com/?p=4118 )の2本を下敷きにしています。本文でふれた分析と相談の中身は、それぞれの記事にあります。

本記事で取り上げた事例は、『DX経営図鑑』(金澤一央/DX Navigator編集部 著、アルク、2021年)を着想元に、公開情報をもとに独自に再構成したものです。書籍本文・図版の転載は行っていません。

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